腰が痛いとつらいですよね。当院を訪れる方の訴えの中でも1位・2位を争うほど多い疾患です。
腰痛や下肢の痛みを起こす疾患は数多くあります。
しかし原因によって症状の部位、程度、性質などが明確に異なっているわけではなく、局所痛、関連痛、反射痛などが複雑にからみ合って出現してくるため、症状によって一つだけ原因を特定するのは難しいと言えます。
ここでは特に多くみられる代表的な腰痛を記載します。
1.筋肉や筋膜などの軟部組織が原因の腰痛
1)筋・筋膜性腰痛
身体を支える組織のうち、筋肉・筋膜、腱などの軟部組織に加わった負荷により生じた炎症による痛みと考えられるものです。
急性腰痛あるいは慢性腰痛の原因になります。
急性の痛みは、重いものを持ち上げたり、野球やゴルフでのスイングなどスポーツで急に腰を捻る運動をしたりするとよく起こります。
腰が痛いけど足は痺れない人はこの症状が考えられます。
2)姿勢性腰痛
足を組んだまま長時間過ごしたり、不自然な格好で寝てしまったりすると起こります。
姿勢が良くないために生じる腰痛で、背筋・殿筋・腹筋などが弱まっている、あるいは腰椎の前弯、骨盤前傾の増強、左右の下肢の長さが違う、偏平足などが原因となることが多いと言えます。
背筋が疲れ、脊柱を支える力が低下すると脊椎の様々な靭帯と筋肉の緊張を引き起こし、しだいに痛みを生じるようになるのです。
⒉ 脊椎(背骨など)が原因の腰痛
1)腰部椎間板ヘルニア
背骨にある椎間板の髄核という部分が後方に飛び出した状態です。
腰部での椎間板ヘルニアは下部に起こりやすいため、馬尾神経あるいは神経根を圧迫して、腰痛だけでなく下肢痛(特に坐骨神経領域の痛みすなわち坐骨神経痛)を起こします。
髄核の突出は、髄核が後方へ押しやられるように椎間板の前部が圧縮されたときに起こりやすいため、重い物を持ち上げようとしたときに発症することが多くあります。
他に腰を伸ばそうとしたときやスポーツが原因で起こることもあり、特に思い当たる原因が無くても起こる人がいます。
年齢は20~40代に多い疾患ですが、幅広い年代にみられます。
痛みは初め腰痛のことが多いのですが、しだいに坐骨神経痛となりやすいのが特徴です。
また、咳やくしゃみによって痛みが強まることが多く、後ろの外側に体を曲げることで下肢(どちらかの足)に痛みを生じることもあります。
坐骨神経痛
坐骨神経痛とは、長い坐骨神経の走行中における障害により、腰部、殿部の痛みと下肢の坐骨神経の走行(大腿後面、腓腹部、足部)に沿う放散痛を訴えるものです。
坐骨神経の障害は機械的圧迫、外傷などによりますが、圧迫によるものがほとんどです。
圧迫は脊柱管、椎間孔、骨盤内、梨状筋下孔部などで起こりやすいです。
すなわち、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、脊髄・脊椎腫瘍、後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化・肥厚症、脊椎分離・すべり症などによる脊柱管における馬尾神経の圧迫や椎間孔における神経根の圧迫、骨盤内の腫瘍、梨状筋下孔部における梨状筋の痙縮による圧迫などがあります。
2)変形性脊椎症
変形性脊椎症は、椎骨および椎間板に退行性変性をきたすものです。
椎体辺縁の骨棘形成、椎間板の変性、椎間関節の変形性関節症様変化が起こります。
椎間板の変性は脊柱の安定性の低下をまねき、そのことは椎体や椎間関節、椎間板への負荷をいっそう増大させてしまいます。
ことに後部の椎間関節および靭帯への影響は大きく、椎間関節性の腰痛や靭帯の痛みを生じるようになります。
変形性脊椎症は、胸腰椎部に著明におこりやすく、円背を呈するようになります(老人性円背)。
また朝に背中のこわばり、背中や腰の痛みをおぼえ、起きて動いているうちにしだいに軽減することもあります。
狭窄が高度になり神経根が絞扼(圧迫)されると、神経の支配領域の疼痛、運動・知覚障害や自律神経障害(冷え、ほてりなど)が起こってきます。
3)椎間関節性腰痛
椎間板の変性によって椎体の固定性が減弱すると、椎間関節の非適合性、異常可動性を生じ、増強する負荷によって変形性関節症性の変化(関節包の肥厚、関節軟骨の破壊と軟骨下骨の露出、骨梁増大、異常骨化、関節辺縁部の骨棘形成など)を起こします。
変化は、椎間板の変性が影響することから、椎間板への負荷が大きい下部腰椎間、ことにL₄、L₅間、L₅~S₁間に起こりやすいのが特徴です。。
椎間関節にはすでに述べたように腰神経後枝内側枝の知覚枝が分布しており、局所の痛みと反射性の種々の症状を呈してきます。
腰痛は運動痛であり、後屈時よりも前屈時に疼痛を訴える場合が多いです。
これは、前屈時には上位椎骨が前方へ移動しようとするが、下位の椎骨の上関節突起がこれを阻止しており、この椎間関節に強いストレスが加わるためと思われます。
傍脊柱部に圧痛がみられる。反射性の症状としては、殿部、大腿外側の疼痛(反射痛で主に牽引痛)、知覚鈍麻あるいは過敏、腰部の筋緊張などが起こります。
椎間板ヘルニアにおける坐骨神経痛のような下肢後側の疼痛は起こりません。
しかし、椎間関節の辺縁の骨棘形成が高度になると、前項で述べたように椎間孔を狭小化し、神経根を後方から圧迫することがあり、この場合には、圧迫された神経支配領域の疼痛、知覚異常なども呈するようになります。
発症は、30代に多く、それ以前あるいは40代以上では順次頻度が低下します。
農業従事者、重量物を挙上することの多い重労働者、長時間運転する運転手などに多く、徐々に発症することが多いのですが、腰を強く捻ったとき(腰椎捻挫)や重量物を持ち上げようとしたときに痛みを発して、その後しだいに増強することもあります。
4)腰椎分離・すべり症
腰椎分離とは、椎弓の上下の関節突起間部に離断が起こっている状態です。
分離した椎体が前方にすべっている状態を分離・すべりといい、この結果、症状が生じているものをそれぞれ脊椎分離症、脊椎分離・すべり症といいます。(まれに分離がなくてすべっているものを無分離・すべり症という。)
分離・すべりは、脊柱の下部にあり、しかも前傾しているためにストレスにさらされることが多い第5腰椎に最も好発しますが、ついで第4腰椎に多いです。
分離は第2および第3腰椎にもみられることがありますが、すべりがみられることはほとんどありません。
発症は、学童齢から始まって年齢の増加とともに率が増加します。
分離があってもすべてが症状を訴えるわけではなく、一部が腰痛を訴えるのみです。
しかし、青少年期の腰痛の重要な原因の1つにもなっており、特に激しい運動を行う運動選手にみられることが多く、運動時痛を訴えます。
一方、高齢者にも多くみられる疾患である。
分離は、分離部の裂隙の状態(程度)によって、亀裂型と偽関節型に分けられますが、亀裂型では骨新生による癒合が起こることがあります。
分離した椎弓は異常可動性を生じるため、棘間靭帯、棘上靭帯、黄色靭帯などの炎症、変性、断裂などの変化や椎間関節の炎症、変形性関節症性の変化などが起こり、それらに由来する症状が起こります。
局所の症状すなわち脊椎症状としては、局所の疼痛(主に運動痛)、棘突起、傍脊柱部(主に椎間関節部)の圧痛、罹患椎骨の1つ上位の棘突起部がくぼんだ階段状変形などがあります。
腰神経後枝を介しての反射痛としては、椎間関節性腰痛の場合と同様に、殿部や大腿外側への牽引痛が起こります。
また、分離・すべりによって馬尾神経や神経根の絞扼が起こると、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアと同様に下肢痛や運動・知覚障害、反射異常、あるいは間欠性跛行などをきたすこともあります。
5)腰椎不安定症
腰椎の分離がないにもかかわらず、椎間板による上下椎体の結合力の減弱によって腰椎の異常可動性を生じ、前屈や後屈の際に腰椎の1つが前方あるいは後方に移動するものすなわち無分離・すべりを示すものを不安定椎といい、これによって症状を起こしているものを腰椎不安定症といいます。
ふつうの伸展位では正常であり、前屈によって前方へ移動すること(前方すべり出し)が多いのですが、後屈時に後方へ移動を示す場合もあります。
好発部位は第4および第5腰椎間ですが、ついで第5腰椎、仙骨間にみられます。
症状は、主に腰痛ですが、椎間板に由来するもの、椎間関節に由来するもの、その他の周囲組織に由来するものなどが単独にあるいは混合して現れてきます。
神経根の絞扼があると坐骨神経痛を起こすこともあります。中年の女性に比較的多いのが特徴です。
6)骨粗鬆症(骨多孔症)、圧迫骨折による腰痛
骨のカルシウムが減少し、また骨梁の減少をきたすものであり、骨緻密質は薄く骨細管は広くなり、骨髄腔が広くなって骨が脆弱化する結果、圧迫骨折をきたしやすくなり、また脊柱の弯曲が増強しやすくなります。
骨梁減少が高度になるとX線像で骨影が薄くなります。
病因については、骨の有機質の大部分を占め、その上に無機質をのせている膠原線維の形成機能、すなわち造骨細胞の機能に関与している性腺ホルモンおよび副腎皮質ホルモンの異常との考えが有力です。
老化現象による老人性骨粗鬆症と卵巣機能低下による更年期後骨粗鬆症(閉経性骨粗鬆症)が圧倒的に多く、加齢による性腺の機能低下により性ホルモンの減少とそれに対する相対的な副腎皮質ホルモンの増加が起こり、造骨細胞の機能低下をきたすため、膠原線維の形成が減少し、無機質も減少するためと考えられています。
また、骨粗鬆は栄養、特に膠原線維の成分である蛋白質の不足および労働(脊柱への負荷)とも関係が深く、低蛋白食、低カロリーでの重労働を行うような人(農業従事者など)に多くみられます。
骨梁が著明に減少すると、体重負荷によって椎体は圧迫変形ないし骨折を起こし、多数の椎体に変形虚脱が起こると円背を形成します。
胸椎後弯増強と腰椎前弯増強によって脊柱がS字カーブを示す円背では、上体をやや反らし、股関節、膝関節を曲げた状態で歩行します。
胸腰椎の後弯により脊柱がC字カーブを示す円背では、軀幹が前傾した状態で歩行します。
高度な場合には杖をついたり、乳母車のような身体を支えるものを押しながらでないと歩行できなくなります。
症状は、腰背部の鈍痛、だるさを訴え、骨折が起こると強い疼痛と棘突起の叩打痛を訴えます。
円背は背部の筋委縮および筋疲労をきたし、疲労性の疼痛を起こします。
また、背部の筋委縮と疲労は円背をさらに増強させることになる。
7)腰部脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は、先天性あるいは後天性の原因によって脊柱管の前後径や横径が減少して狭窄し、脊柱管内の脊髄や神経が圧迫されて種々の症状を呈するものです。
腰部では第3腰椎以下の脊柱管内には脊髄がなく、馬尾神経のみが圧迫される。脊柱管の狭窄は、先天性のほかに、変形性脊椎症による椎体辺縁の骨棘形成、椎間板変性による膨隆、後縦靭帯の骨化、黄色靭帯の骨化・肥厚、脊椎分離・すべりなど、脊柱管をせばめるような周囲の組織の後天的な病変によって起こるものであり、単独の疾患ではありません。
40~60代に多く、馬尾神経の圧迫によって、間欠性跛行を呈することが多くなります。
間欠性跛行とは、一定距離の歩行によって疼痛やしびれ、脱力などが出現し、歩行が不可能になり、休息によって再び歩行が可能になるものです。
間欠性跛行には、馬尾神経性、脊髄性、動脈性などがあります。
馬尾神経性間欠性跛行は馬尾神経の圧迫によるものであり、一定距離の歩行によって徐々に両下肢の脱力やしびれが起こってきて、足が前に進みにくくなり、歩行の続行が不可能になりますが、しばらくしゃがんで腰を曲げていると楽になり、再び歩行が可能になるものです。
ときには疼痛を伴います。しびれのほか、冷感、灼熱感などの異常感覚、運動・知覚障害がみられ、ときには排尿障害を伴います。
下肢への放散痛を伴う脊柱の後屈制限がみられることが多いです。
脊髄性間欠性跛行は、同様に、脊柱管の狭窄による脊髄の圧迫によって跛行をきたすものです。
動脈性間欠性跛行は脊柱管や椎間孔での神経の圧迫によるものではなく、一側あるいは両側下肢の動脈硬化によって血管の狭少をきたし、筋血流が減少することによって起こるもので、その様相を異にしています。
すなわち、馬尾神経性のものは疼痛よりも脱力やしびれが主体であるのに対し、動脈性のものは疼痛が主体です。
前者の症状の原因は腰椎部脊柱管にあるので、脊柱管が広くなる前屈位では症状が消退し、また前屈位での運動(自転車に乗ってペダルを踏むなど)では症状が発現しません。
後者は症状の原因が筋血流にあるので姿勢に無関係であり、また前者は運動・知覚障害を伴うが後者ではみられません。
また、後者においては下肢の血流障害であるので、足背動脈などの拍動が欠如あるいは減弱します。
血行障害が高度になると壊死を起こすことがあります。
馬尾神経性では弛緩性麻痺をきたすことがありますが、動脈性では起こりません。
8)強直性脊椎(関節)炎
骨格、特に椎間板や椎間関節を含む脊柱の炎症性系統疾患で、仙腸関節は早期から侵されます。
仙腸関節、椎間関節の骨性癒合(強直)、靭帯、特に前縦靭帯の化骨の結果、脊柱は竹の棒状(竹節状脊椎)になり、動かなくなる(不撓性)、背部の運動制限と疼痛を訴えるますが、強直が進むと腰部から後弯を呈してきて円背を形成します。
20~30代の男性に多く、女性にはあまりみられません。
以下に主な腰痛の原因を示しておきます
⒈ 靭帯、筋・筋膜などの軟部組織疾患
1)靭帯断裂(棘上靭帯、棘間靭帯など)
2)筋・筋膜性腰痛
3)姿勢性腰痛
4)後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、肥厚症
⒉ 脊椎疾患
1)腰部椎間板ヘルニア
2)変形性脊椎症
3)椎間関節性腰痛
4)脊椎分離・すべり症
5)腰椎不安定症
6)骨粗鬆症(骨多孔症)、圧迫骨折
7)腰部脊柱管狭窄症
8)強直性脊椎(関節)炎
9)脊椎炎(結核性、化膿性など)、椎間板炎
10)脊椎腫瘍
11)先天性腰仙部奇形
12)潜在性腰椎、仙骨披裂
13)腰仙角異常、過度腰椎前弯
⒊ 脊髄疾患
1)脊髄腫瘍
2)癒着性クモ膜炎
⒋ 神経根、末梢神経の障害
1)神経の腫瘍
2)絞扼神経障害
⑴ 脊髄神経後枝の皮枝の絞扼
⑵ 外側大腿皮神経の絞扼
⑶ 閉鎖神経の絞扼
⑷ 坐骨神経の絞扼
⑸ 伏在神経の絞扼
⑹ 総腓骨神経の絞扼
⑺ 後脛骨神経の絞扼
⑻ 腓腹神経の絞扼
⑼ 趾神経の絞扼
⒌ 骨盤部疾患
1)仙腸関節疾患
2)股関節疾患
⒍ 内臓疾患
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